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刻の桜 ~トキのサクラ~(6話-3)

しかし…勝はハッキリとモノを言う男だった。
「サラさん…この卵焼きは食えん!!」

それはそうである…
ほうれん草の変わりに、オリーブオイルとバジルを加え、ワサビで味をしめていたのである。

「ガーーーン…」ショックで項垂れるサラと…
「あ…危ねえ~…」
お腹は空いていたが我慢して、ホッと胸をなでおろすシグレがいた。
ちょっと賢くなったシグレだった。

「隣で横になりませんか?」
具合悪そうな龍馬に、椅子の横の芝生を指さして舞は言った。

「そうじゃの~」
舞は龍馬の腕を引くと、芝生にシーツのような物を敷き膝枕をした。

その様子をみた勝とサラは気を使ってか…
「向こうからの方が良く港が見えるな」
「そうね!」
と相槌を打つと、サラはおにぎりを数個持って少し離れたテーブルに移動した。

「げっ…??」
「それ持って行くんかーーーーーい!!」

勝は、サラが手に取った数個のおにぎりの中の具が…
全て大当たりのロシアンルーレットに思えて仕方なかった…

龍馬は心地よく通る風と、舞の膝と手のぬくもりを感じ目を閉じると、ついそのまま寝てしまった。
舞も繋いだ手から伝わる龍馬の想いを感じ取り…
起こさないよう、そっと何度も足を組み替えながら、過ぎる静かな時を満喫していた。

それをよそ目に、勝とサラは話しまくっていた。
お互いに頭が良く知識が豊富…得られる色々な情報に耳を傾ける。
話し出すと止まらないのである。

日が傾き木陰が長く伸びてきたころ…
舞が体が冷えないかと気遣ってかけた風呂敷に気が付いて、龍馬は目が覚めた。

「あ、起こしちゃったわね」
「あ~ 良く寝たがや…」

寝起きの顔を優しく覗き込む舞…
手もずっと握ってくれている。

嫌な時は嫌、嬉しい時は心から喜び、不安を感じたときは素直に態度に現れる…
そんな舞の性格を直感的に感じ、心を許したのか初めて龍馬の重い口が開いた。

「俺は…脱藩して家族を裏切ってしまった」
「また沢山の仲間の心を踏みにじり、そして死なせてしまった…」
「全部俺のやった事が原因やき…」

舞は涙を滲ませる龍馬に、何も言わずそっと握った手に力を込めた。
そして少しの時をおいて、舞は言った。

「私の心はいつも貴方の傍にいます」
「貴方にはきっと、心に決めた夢があるはず…」

「あなたは…」

舞がここまで言うと、龍馬はそっと親指で舞の口を閉じ
「舞と一緒にいると、ついつい甘えてしまう」
と言葉を添え…

腰まで起き上がると、舞のほほに握った手を優しくあてがう…
そして自分のほほも近づけると、そのまま抱き寄せキスをした。

少し長めの、優しくも熱いキスだった…
唇が離れ、少しの間をおいて龍馬が…

「舞さん…舞さんはほんとに優しい…」
「昨日の約束、覚えてるがや?」
「全てが終わったら、二人で旅に出よう」

龍馬は再度、胸に舞の顔を引き寄せ、肩を優しく抱きしめながら言った。

「うん」
2つ返事で答えると…
舞はその時を思い浮かべ、心から嬉しそうにニッコリ微笑んだ。

その裏で…
またしても勝とサラは声をかけるタイミングを失っていた。
しかし2人はなぜか嬉しくて、顔を見合わせて笑みを浮かべた。

そして一部始終を見ていたサラ…
「いつかこれは使える!!」

8月の終わり…まれに涼しい夏の日の午後…
サラのお尻に悪魔の尻尾が生えた瞬間だった。

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