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刻の桜 ~トキのサクラ~(7話-1)

数日後、幕府からの許可がおりると、グラバーはジョージの元を訪れ、更に詳しく説明した。

しかし、誰からの依頼なのかそれだけは何度聞いても教えて貰えない。

 

余程の事なのか?と思いつつ…

ジョージは言われた通り上海に行くと偽り、真っすぐ西に向かった。

 

五島列島の港に着くと、言われた様に停泊し灯りをともした。

こちらに男が近づいてくると、ぶっきらぼうに話しかけてくる。

 

「月は欠けるが…」

 

その言葉にジョージは答える。

「時は満ちたり」

いわゆる暗号である。

 

その言葉を聞いた男は後方に合図を送る。

そうすると、木箱を担いで数人の男が船に乗り込んで来た。

 

「約束の物だ」

「これらを間違いなく長州に届けてくれ」

素早く何度も往復し、荷物を積み終わると、そう言い残し早々と去って行った。

 

この武器を誰にも見られることなく、長州まで運ばなければならない。

そして長州では武器を売り、今度は薩摩にお米を積んで運ぶというルート…

幕府に見つかると、間違いなく捕らえられる…いや殺されるかも知れない。

 

ジョージは恐怖に怯えつつも、頼まれ事を放棄するわけにもいかず…

運を天に任せるかのように祈った。

米が採れる時期を調整し9月半ば過ぎ、五島列島から長州を目指した。

 

本来なら下関を通り、直接長州の中心、山口に向かうのだが

第一次長州征伐の影響で幕府の見張りが厳しい状況。

 

万一を考え、長州北部、旧藩庁があった萩の町で積み荷を渡すことになっている。

角島沖を大回りして通る事により幕府に見つかることなく、どうにか萩にたどり着いたジョージ達一行。

後は武器を売り、米を積んで薩摩に向かうだけである。

 

多少の安堵感を感じ先が見えてきたのだが…

その待ち合わせ場所に現れたのは、なんとあの龍馬だった!

 

なぜ幕府側の龍馬さんがここに?

サラとジョージは意味が分からなくなっていた…

 

長州は幕府の敵で、しかも現状は薩摩とも犬猿の仲である…

幕府側の龍馬が、武器を長州に渡し、米を敵国の薩摩に運ぶのか…

理解できるわけがなかった。

 

しかし、事の重大さは龍馬の表情から読みとめられる。

この前の大地のような優しい眼差しとはかけ離れ…

こちらを氷のような冷たく、鋭い視線で見つめている。

 

「んぜここにサラさんがいるがあ?」

「わしを見られたからにゃあ、帰すわけにはいかんぜよ」

 

そう…龍馬は幕府の敵国の長州を、仲の悪い薩摩と手を組ませ…

外国の言いなりの何も変わらぬ幕府を、倒そうという考えだったのである。

 

もし、龍馬の顔を知らない者であれば、他言無用の脅しだけで済んだのかも知れない。

しかし友とはいえ、自分の立場を理解している者にこの件を知られ…

そのまま生かして帰すわけにはいかなかったのである。

 

「サラさん、すまんのお~ 諦めちゃり」

そういうと龍馬は腰の刀をスラリと抜いた。

 

ジョージは慌てて手を振り、

龍馬にやめてくれの意思表示をしたが、切羽詰まっているのか言葉にならない。

 

「どうかお願いします!」

「絶対に他言しません。見逃して下さい。」

サラは懇願したが、物ともせず龍馬はサラたちとの距離を詰めていった。

 

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