数日後、幕府からの許可がおりると、グラバーはジョージの元を訪れ、更に詳しく説明した。
しかし、誰からの依頼なのかそれだけは何度聞いても教えて貰えない。
余程の事なのか?と思いつつ…
ジョージは言われた通り上海に行くと偽り、真っすぐ西に向かった。
五島列島の港に着くと、言われた様に停泊し灯りをともした。
こちらに男が近づいてくると、ぶっきらぼうに話しかけてくる。
「月は欠けるが…」
その言葉にジョージは答える。
「時は満ちたり」
いわゆる暗号である。
その言葉を聞いた男は後方に合図を送る。
そうすると、木箱を担いで数人の男が船に乗り込んで来た。
「約束の物だ」
「これらを間違いなく長州に届けてくれ」
素早く何度も往復し、荷物を積み終わると、そう言い残し早々と去って行った。
この武器を誰にも見られることなく、長州まで運ばなければならない。
そして長州では武器を売り、今度は薩摩にお米を積んで運ぶというルート…
幕府に見つかると、間違いなく捕らえられる…いや殺されるかも知れない。
ジョージは恐怖に怯えつつも、頼まれ事を放棄するわけにもいかず…
運を天に任せるかのように祈った。
米が採れる時期を調整し9月半ば過ぎ、五島列島から長州を目指した。
本来なら下関を通り、直接長州の中心、山口に向かうのだが
第一次長州征伐の影響で幕府の見張りが厳しい状況。
万一を考え、長州北部、旧藩庁があった萩の町で積み荷を渡すことになっている。
角島沖を大回りして通る事により幕府に見つかることなく、どうにか萩にたどり着いたジョージ達一行。
後は武器を売り、米を積んで薩摩に向かうだけである。
多少の安堵感を感じ先が見えてきたのだが…
その待ち合わせ場所に現れたのは、なんとあの龍馬だった!
なぜ幕府側の龍馬さんがここに?
サラとジョージは意味が分からなくなっていた…
長州は幕府の敵で、しかも現状は薩摩とも犬猿の仲である…
幕府側の龍馬が、武器を長州に渡し、米を敵国の薩摩に運ぶのか…
理解できるわけがなかった。
しかし、事の重大さは龍馬の表情から読みとめられる。
この前の大地のような優しい眼差しとはかけ離れ…
こちらを氷のような冷たく、鋭い視線で見つめている。
「んぜここにサラさんがいるがあ?」
「わしを見られたからにゃあ、帰すわけにはいかんぜよ」
そう…龍馬は幕府の敵国の長州を、仲の悪い薩摩と手を組ませ…
外国の言いなりの何も変わらぬ幕府を、倒そうという考えだったのである。
もし、龍馬の顔を知らない者であれば、他言無用の脅しだけで済んだのかも知れない。
しかし友とはいえ、自分の立場を理解している者にこの件を知られ…
そのまま生かして帰すわけにはいかなかったのである。
「サラさん、すまんのお~ 諦めちゃり」
そういうと龍馬は腰の刀をスラリと抜いた。
ジョージは慌てて手を振り、
龍馬にやめてくれの意思表示をしたが、切羽詰まっているのか言葉にならない。
「どうかお願いします!」
「絶対に他言しません。見逃して下さい。」
サラは懇願したが、物ともせず龍馬はサラたちとの距離を詰めていった。