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刻の桜 ~トキのサクラ~(8話-2)

それからというもの、トキは毎日のように龍馬の船に行くと…
剣の稽古を手伝ったり、世界の事に関し知っている事を話したりした。

違う時代の世界の話が、龍馬には驚きの連続であり…
それは面白くてたまらなかった。

それから数日が過ぎ、船は薩摩に無事到着した。

「サラさんたちはここで待っちょって下され」

そう言うと龍馬は船を降りて行った。
もちろん待っていたのは、あの「西郷隆盛」である。

「坂本さん、ほんのごつご無沙汰しとおりやす」
出迎えた西郷は、親友を招くように丁重にもてなした。

迎賓専用のお屋敷に通された龍馬は、早々に長州の親書を差し出した。

「これが長州の意思やき」
「西郷さんの武器に対する、お礼のあの米が長州の想い…」
「その想いも組んだり」

龍馬は幾度となく薩摩にしてやられた長州の悔しさを表すべく…
ギンとした目で西郷を見た。

「ここらで積年のいざこざも水に流すか…」
西郷は龍馬の決死覚悟の目をみて、腹をくくった。

そして龍馬の用意した同盟書にサインをしたのであった。
いわゆる薩長同盟の成立である。

「西郷さん、流石じゃあ~」
「絶対に分かってくれると思うちょりました」

龍馬は西郷の手をしっかりの握り、その思いを伝えた。

「早速、長州に知らせて来ますき、今度は桂さんたちと一緒に会いしましょっ」
「追って連絡しますがや~」

と言い残すと、嬉しさを表すように飛び跳ねて去って行った。

「サラさーん、お待たせしちょりました…」
「お米を下ろし終わったら、早速出ましょう」

一刻を争うかのように龍馬は荒立てる
が…長州から思ったより日数がかかったのもあり、多少の食料・水を補給する事にした。

「出航は明日でも良いかしら?」
サラは食料調達に時間が欲しかった。

「ま、しゃーないき…」
龍馬は少しでも早く長州に向かいたかったが、明日朝まで待つことにした。

「長居は無用じゃあ~」
「わしはまた長州に向かいますけえ、長崎までご一緒しましょう」

翌朝、日が昇ると同時に龍馬たち一行は船を出した。
この1日の遅れが命運を分けると知らずに…

潮の流れに乗れる帰路は早く、翌日の昼には長崎が見えて来た。
しかし1月前の長崎とは一変し、重い空気が立ちこめている。

そう、停泊していたはずの幕府の新型戦艦が出航し、沖に隊列を組んで並んでいたのである。
サラと別れようとした龍馬だったが、近づいてきた一隻の船に止められる。

「そこの船、ただちに長崎港に停泊しなさい」
「さもなくば攻撃を開始する」

間違いなく幕府の船である。
龍馬やサラたちは嫌な予感がしていた。
破天荒なトキを除いて…

近づいてきた船が先導し、3隻は長崎港の南側の人里から少し離れた停泊所に止めるよう指示された。
横は砂浜で何もない。
鉱物資源専用の停泊所のような感じである。

しかし…
泊まっている船は一隻もなかった。

嫌な予感が更に加速する中、言われるまま堤防に船をつけると降りて行った。